long after midnight
とうに深夜を過ぎて。
見張り台のゾロはそろそろ寝ようかと、頭の後ろで両手を組んだ。
敵襲がありゃ、その船が近づく前に目は覚める。
島なんか見えるわけがない。見えるほど近くにいるのなら、あのナミが何も言わないわけがない。
だから、見張りだけど安心してゾロは寝る。
目を閉じようとしたときに、ギシギシと誰かが上って来る音がした。
「…」
決まってる。
こんな夜中に、何も言葉をかけずにゾロの不寝番のときを狙って見張り台に上がってくる奴なんか、1人しかいない。
案の定、金色の頭がひょこりと、続いて白い顔がのぞいた。
「よぅ、感心感心。寝てねぇじゃん。」
サンジが見張り台のふちに手をかけて、軽々と飛び越えた。
すとんとゾロの横におさまる。
「寝てなかった褒美だ、受け取れ」
そう言うなり、ゾロの腹に金色の頭を押しつけてくる。
そして、
「ほれ」
ゾロの手を取って、自分の頭を撫でさせた。
撫で撫で撫で撫で。
ゾロはされるがままだ。
手をひくでもなし、自分から撫でてやるでもない。
サンジは「ぅぅ〜ぃ」と妙な声を出して、ゾロに頭を撫でさせている。
酔っているわけでもない。
深夜の不寝番のときに限って、時々この男がやりにくるのが、コレだ。
もうゾロも慣れた。
「よし」
やがてサンジがつぶやいて、顔を上げる。
「もういらねぇよ」
と、さも用無しだと言わんばかりに、汚そうにゾロの手をつまみ上げて投げ捨てる。
「じゃーな、寝るんじゃねえぞ」
上機嫌で、見張り台から飛び降りる。
1,2秒してから、下から軽やかに着地した音が聞こえ、革靴の足音が遠ざかってゆく。
ラウンジのドアが閉まる音。
その音を耳で追っていたゾロは、
「ったく」
小さくつぶやいた。
今日、出航してきたあの島で何があったのか知らないが、あの男は時々嫌な事があるとゾロの手を借りに来る。
『てめぇの手は斬って捨てる手だろ?』
一番最初にコレをやりに来た夜、あのアホはそう言って笑った。
その時停泊していた島は内乱状態で、サンジは赤ん坊とそれをかばった母親が撃ち抜かれた瞬間を見てしまったのだと後で知った。
その銃口はサンジを狙ったものであり、母子は流れ弾にあたったのだと。
その前日、ゾロとサンジは降りかかった火の粉を払うために数人の男をのしていた。
相手は戦闘に関しては素人同然だったから、徹底的に叩かずに命だけは取らなかったのが逆に災いして、翌日1人でいたところをサンジが狙われたのだ。
性根は優しい男だ。
けれど、物陰から背後を狙うような奴を許す種類の優しさは、生憎持ち合わせてはいない。
ましてやその銃弾が罪もない母と幼子の命を奪ったとなれば、更に怒りは苛烈だった筈だ。
叩きのめすだけではすまなかったのだろう、あの兵士達を。
出航したその夜、サンジは見張り台にいたゾロのところに来て、自分の頭を撫でさせた。
そして、言ったのだ。
『斬って捨ててくれ』
と。
いくらでも斬ってやろうじゃねえかと、ゾロは思う。
『てめぇの豆腐頭の中味ぐれぇ、いくらでも斬って捨ててやる。』
だから。
『だから、平気なふりしてここから下りたあと、ラウンジで朝までパンこねたり、なんか知らねぇがスープみてぇなもの煮込みながら、ぐだぐだ考えるんじゃねえ。考えたって、阿呆の考え休むに似たりだ。アホコックが。』
手と服を白い粉に染めて、パンをこねているサンジ。
野菜や骨やら煮込んで、時々なんかすくいあげながらスープを作っているサンジ。
その気配をずっとゾロは追う。
頭の後ろで手を組み直しながら、足を投げ出して長時間座っていても楽な姿勢をとる。
朝になり、夜が明け、ようやくのことでサンジの小さな歌声が聞こえてくるまで。
ゾロもまた、眠れない。
END
わたくし的、少女漫画の限界。